
昨今、ChatGPTをはじめとする生成AI技術が急速に進化し、多くの企業で導入や活用が検討されています。「AIを使って何か新しいことを」「業務を効率化したい」といった期待が高まる一方で、「とりあえず導入してみたけれど、思うような成果が出ない」「具体的にどう活用すれば良いかわからない」といった声も少なくありません。本記事では、なぜ「とりあえずAI」のアプローチがうまくいかないのか、そして生成AIを真にビジネス価値に繋げるための考え方と具体的なアプローチについて解説します。特に、注目される技術トレンドと、その活用に不可欠な「ナレッジ基盤」の重要性に焦点を当てます。
高まるAIへの期待と「とりあえず導入」の現実
AI市場、特に生成AIの分野は目覚ましい成長を遂げており、ビジネスにおける新たな可能性を切り拓く技術として大きな注目を集めています。多くの企業が、顧客への付加価値向上や業務効率化を目指し、AI技術の導入を検討・推進している状況です。実際に、社内で生成AIツールが導入されている企業は増えつつあります。
しかし、その一方で、「とりあえず生成AIを導入してみよう」という、いわば「技術ドリブン」のアプローチに陥ってしまっているケースも散見されます。新しい技術を使ってみること自体は悪くありませんが、明確な目的や課題意識がないまま導入を進めても、期待した効果を得るのは難しいのが現実です。「AIで何かできないか?」という漠然とした問いから始めてしまうと、具体的な成果に結びつきにくくなります。
「とりあえずAI」が失敗する理由
「とりあえずAI」のアプローチがうまくいかない主な理由は、技術ドリブンではなく、課題ドリブンで考える視点が欠けていることにあります。AIは魔法の杖ではありません。解決したい具体的なビジネス課題があって初めて、その能力を最大限に発揮できるツールなのです。
よくある誤解として、「大量の資料をAIに読み込ませれば、自動で整理してくれたり、的確な答えを出してくれたりするだろう」という期待があります。しかし、多くの場合、社内に存在するマニュアルや報告書、ログデータといった情報は、形式もバラバラな「非構造データ」です。これらをそのままAIに投入しても、AIが理解し、有効に活用することは困難です。AIが情報を正しく解釈し、検索や分析を行えるようにするためには、データを適切な形に「構造化」する前処理が不可欠なのです。この準備を怠ると、AIは期待通りの性能を発揮できません。
成果を出すための鍵:課題ドリブンとナレッジ基盤
生成AI活用で確かな成果を出すためには、まず「どの業務課題を解決したいのか」という課題ドリブンで考えることが重要です。その上で、AIがその能力を発揮できる環境、すなわち「ナレッジ基盤」を整備する必要があります。
ナレッジ基盤の構築において重要なのは、以下の二点です。

- データの整備(構造化): AIが理解しやすいように、社内の非構造データを整理・構造化すること。これには、テキスト抽出技術や、生成AI自体を活用したデータの整形・意味付けなどが有効です。例えば、PDFのマニュアルから図表を含めて情報を抽出し、検索しやすい形式に変換するといった作業が挙げられます。

2. アーキテクチャ設計: AIを既存の業務プロセスやシステムとどう連携させるか、その全体像を設計すること。どこまでをAIに任せ、どこを人間が担うのか、あるいは既存のシステムロジックとどう組み合わせるのか、といった点を明確にする必要があります。
近年注目されている技術トレンドとして、RAG(検索拡張生成)とAI Agentがあります。RAGは、社内文書などの信頼できる情報源をAIが検索・参照して回答を生成する技術であり、問い合わせ対応などで活用が進んでいます。AI Agentは、与えられた目標達成のために、計画立案から情報収集、実行、評価までを自律的に行うAIです。これらの技術を効果的に活用するためにも、前述したデータの整備とアーキテクチャ設計、すなわちナレッジ基盤の構築が極めて重要になります。
Microsoft 365と連携した活用例
多くの企業で利用されているMicrosoft 365と生成AIを連携させることで、より身近な業務の効率化を図ることも可能です。

* Teams連携による問い合わせ自動化:
* メリット: 日常的に使うTeams上で、社内規定やFAQに関する問い合わせにAIが自動応答。従業員の自己解決を促進し、担当部署の負担を軽減。会議室予約などの定型業務も自動化可能。
* 導入のポイント: 問い合わせ内容に応じた適切な情報源(SharePoint上の文書など)をAIが参照できるよう、RAGの仕組みと連携させることが鍵。どのような対話フローにするかの設計も重要。

* SharePoint上のナレッジ活用:
* メリット: SharePointに蓄積された大量の文書やデータをAIが理解・検索可能な形式で整理(構造化)。必要な情報へのアクセス性を飛躍的に向上させ、ナレッジ共有を活性化。
* 導入のポイント: 文書の種類や形式に応じた適切なデータ抽出・構造化処理。メタデータの活用による検索精度向上。
これらの連携を実現するには、単にツールを繋ぐだけでなく、データの流れやAIの役割を明確にしたアーキテクチャ設計が不可欠です。
まとめ・結論
生成AIは、ビジネスに大きな変革をもたらす可能性を秘めた強力な技術です。しかし、「とりあえずAI」という曖昧なアプローチでは、その真価を引き出すことはできません。重要なのは、解決したいビジネス課題を明確にし(課題ドリブン)、AIが能力を発揮できる「ナレッジ基盤」(データの整備とアーキテクチャ設計)を着実に構築することです。
RAGやAI Agentといった最新技術も、この基盤があってこそ活きてきます。Microsoft 365のような既存ツールとの連携も視野に入れながら、一歩ずつ着実に導入を進めることが、生成AI活用の成功に繋がります。AI技術は日々進化しています。常に最新情報をキャッチアップし、自社の状況に合わせて柔軟に活用方法を検討していく姿勢が、今後ますます重要になるでしょう。