※サントリースピリッツ様では、新型コロナ対策のためマスク着用で業務をされていますが、写真撮影時のみ一時的にマスクを外していただきました。
“現場のペーパーレス化”アプリをサントリー工場の若手社員と開発。
プロジェクトを通して会社のDX化を担うIT人材の育成に成功。
サントリースピリッツ梓の森工場(栃木県)は、サントリースピリッツ社の中でも最も生産能力が高く、東京ドーム13個分の敷地の中では主にウイスキー、焼酎、リキュール、カジュアルワイン、RTDといった多品目を生産しています。
その梓の森工場で現在急速に進んでいるのが業務のDX化です。これまでITベンダーに委託していたITシステムの構築・改修作業の一部を、工場内の若手IT人材が内製することにより、スピーディなDX化を図っています。
こうしたDXの内製化が進んだ背景には、2021年の9月から12月まで、テンダがコンサルティングに入って取り組んだプロジェクトがありました。一体どういったプロジェクトであったのか、プロジェクトに携わった方々への取材をもとに、その概要を紹介します。
【取材対象者(敬称略)】
サントリースピリッツ株式会社 梓の森工場
・大澤マネジャー(品質保証部門)
・藤井リーダー(パッケージング部門)
・増田さん(工務部門)
・瀬口さん(品質保証部門)
・石塚さん(パッケージング部門 ※4月に異動され、現在はウイスキー原酒開発生産部に所属)
・白澤さん(パッケージング部門)
・小池さん(品質保証部門)
プロジェクトの概要と経緯
梓の森工場では経理や酒税等の全社共通のシステム化は進んでいましたが、伝統あるスピリッツ製造工場固有の製造業務においては生産・品質データの管理に紙のチェックシートが使用されてきました。しかし、紙での管理は記入や共有がいちいち面倒で非効率です。また、データを集計する際も、分厚いファイルの中から用紙を探しだす手間や、それを1枚1枚Excelに入力し直す手間など余分な業務が生じていました。
そこで、この問題の解消のために、紙のチェックシートや分析記録表を電子化し、タブレット1つでデータの記入、転送、集計といった一連の管理作業を完結できるITシステムの構築を検討されていました。
紙のチェックシート画像
データの集計では、大量のファイルから該当のチェックシートを探さなくてはならなかった
プロジェクトのもう一つの目的
梓の森工場には、このプロジェクトで達成したいもう一つの目的がありました。それは、
「工場内部にIT人材を育成し、今後のITシステムの構築や改修を内製化する」ことです。
これは、今まで導入してきたITシステムの運用に2つの問題点があったためです。一つは、既存の運用ではITベンダーに改修を依頼するたびに費用と時間がかかってしまうこと。もう一つは、IT知識の差からベンダーと対等なコミュニケーションがとれていなかったことでした。
このようなベンダー依存の問題を解決するため、工場内部のIT人材の育成と内製化を図っていました。
テンダに依頼した決め手
テンダには、プロジェクト開始3カ月前の2021年の6月に問い合わせがありました。「紙のチェックシートの電子化」の支援と、その支援を通じた「IT人材の教育、育成」の両方のDXコンサルティングができる企業を探す中で、Webサイト経由でテンダに興味を持っていただきました。
テンダ選定の決め手としては、①問い合わせ回答のレスポンスが早くサポートが受けやすそうだったこと、②4か月間という短期間でも対応可能であること、③費用感も想定内だったこと、などでした。
テンダの支援内容
こうして2021年の9月から12月まで、「紙のチェックシートの電子化」と、それを通じた「IT人材の教育、育成」のプロジェクトが始まりました。
プロジェクトではMicrosoft 365プラットフォームの活用を前提としつつも、初期段階ではその他の選択肢も除外せず、生産業務からの要求事項を検討した上で、最終的にはMicrosoftのDataverse、Power Apps、Power BIを用いたシステムを構築することになりました。
テンダでは、このプロジェクトで真っ先に現場理解に取り組みました。プロジェクト開始後すぐに、生産ラインの見学とヒアリングを行い、「現場の方々が使いやすい電子化システム構築には何が必要か」や、「今後、工場をDX化していくにあたって必要なデータベースをどのように設計すべきか」といった細かな確認を行いました。
そして、プロジェクトのゴールを明確にイメージすること、それを達成するための4カ月間のマイルストーンを設定し、具体的な支援に移っていきました。
このプロジェクトには、梓の森工場から5名の若手メンバーが参画されました。メンバーの中には、まったくアプリを開発したことがない方もおり、ITリテラシーの高さにばらつきがありましたが、レベルに合わせて個別レクチャーなどを行い、全体の底上げを図りました。担当者はチャットや週2回のオンラインミーティングで頻繁にメンバーとやり取りしつつ、時には工場まで足を運びながら、支援を行いました。
プロジェクトメンバーによると、レクチャーを受ける中で最も大変だったのは「ER図の作成」だったとのことです。ER図とは、簡単に言うと「データベースを設計するために必要なデータ関連図」のこと。アプリケーション自体の作成作業と比べると地味な工程ですが、ER図の作成は妥協しませんでした。なぜなら今後、長くデータを管理し、梓の森工場全体のDX化を進める中では、土台となるデータベースが最も重要になってくるからです。
実際のレクチャーでは、プロジェクトメンバーが作成したER図をテンダがレビューし、アップデートしていただく壁打ちを1カ月以上も行いました。この間の苦労を、メンバーの一人は「ER図の作成作業が夢にでてきたほど…」とお話されていましたが、「これで大丈夫」と言えるER図が完成するまで支援させていただきました。
こうして最後には、メンバー全員の努力でER図が完成。テンダも驚くほどの完成度で仕上がりました。
プロジェクトの成果
ER図の作成後は、データベースの構築やアプリケーションの作成といった様々な工程を順調にクリア。4カ月のプロジェクト期間内に「紙のチェックシートを電子化するアプリ」の開発(PoC)が完遂しました。このアプリは、現場での試験運用にも成功し、現在は工場全体の帳票電子化に向け準備を進められています。
紙からの電子化に成功
また、もう一つの目的でもあった「IT人材の育成」という点でも、5名全員が大きく成長されました。
実際にプロジェクトが終わった後にも、5名は今回得た知見を活かして活躍を続けています。例えば、このアプリの試験運用を行った時に、現場のスタッフから「画面の文字を大きくしてほしい」や「レイアウトを変えて欲しい」といった要望が出たそうですが、5名のメンバーがすぐにそのリクエストに合わせてアプリを改修しました。
また、工場では全社員が出勤時の体調を紙に記入していましたが、こちらもプロジェクト終了後にメンバーが、体調を簡単に記録できるアプリを開発して電子化に成功しました。
プロジェクト終了後もIT人材が育ち、システムの構築ノウハウが内製化されたことで、さまざまな成果が生まれています。
プロジェクトメンバーが独自に作成した健康管理表のアプリ
今後の梓の森工場の展望
今回は品質管理部門とパッケージング部門の2つの部門に限定したプロジェクトでしたが、今後は成長したメンバーたちが中心となって、工場全体のチェックシートの電子化に取り組まれるということです。
また、ゆくゆくは今回のプロジェクトで成長した5名が核となってさらにIT人材を増やしていき、サントリースピリッツ全体のDX化を加速させていく展望もあるとのことでした。
テンダとしても、今回のコンサルティングで提供したノウハウが広く社内で共有され、それがサントリー様全体のDX化につながることを強く祈念しております。
プロジェクトに関わられたメンバーの声(敬称略)
・大澤マネジャー(品質保証部門)
「旗振り役の1人としてプロジェクトに関わらせていただきました。本当にこんな短納期でアプリの開発とIT人材の育成が出来るのかと疑問に思っていましたが、急速に5人のメンバーが力をつけていったのには驚きました。全員が楽しみながら成長することが出来たと思います。これから少子高齢化で労働人口は減っていきますが、こういったDX化の取り組みが、将来的に会社の働き方改革に繋がっていくと考えています」
・藤井リーダー(パッケージング部門)
「旗振り役としてプロジェクトを主導させていただきました。自前でアプリを開発する会社は世の中でもまだまだ少ない中で、今回弊社の若い5人のメンバーが開発スキルを得られたことは、まさに弊社らしい「やってみなはれ!」であり、非常に会社の将来に役立つ結果となりました。テンダさんには、一人ひとりのメンバーたちの能力に応じて出来るまでとことん付き合って教えてくれたことに感謝しています。」
若手プロジェクトメンバー5名の声(敬称略)
・増田さん(工務部門)
「以前アプリを作ってみたことはあったのですが、『本当にこのやり方が正しいのか』と疑問に思いつつやっていたので、今回のプロジェクトで答え合わせが出来ました。また、アプリを開発するにはデータベースの構築が大切で、さらにデータベースの構築には会社の経営方針やガバナンスの部分を考えることが大事だと教えていただき、理解できたのは大きな収穫でした。プロジェクト中、テンダさんの教え方や伝え方がとても参考になったので、今後はそれを真似して私が教えられる側になり、社内にIT人材を増やしていきたいと思います。」
・瀬口さん(品質保証部門)
「私はITの知見が全くないレベルからスタートしましたが、テンダさんは専門用語などを使わず、ITを知らない人間にも目線を合わせて教えてくださいました。教材としておすすめの本を教えてくれたり、質問リストを送ったらすぐに回答をくださったり、栃木の工場まで来られて終電間際まで指導してくださったり、、、大先生です。おかげさまでタブレット注文の飲食店にいくと、『このシステムのER図はどうなっているのだろう』と裏側を考えてしまうようになりました。自分たちでアプリを開発、改修できることで、今まではシステムに合わせて作業をしていたのが、作業にシステムを合わせられるようになり、仕事の考え方を大きく変えることが出来ました。」
・石塚さん(パッケージング部門 ※4月に異動され、現在はウイスキー原酒開発生産部に所属)
「プログラミングやアプリ開発の知識はある程度持っていましたが、アプリの土台となるデータベースの大切さを理解できたのが勉強になりました。プロジェクトで最も大変だったのは、データベース構築にあたって必要なER図の作成です。なかなか上手く作れず、ER図が夢に出てきたほどでしたが、何度もご相談させていただき、最後には完成させることが出来ました。出来上がったアプリについては、改善点が見つかったらすぐに対応出来るのが、今までとは異なる点だと感じました。今は梓の森工場から異動しましたが、現部署でも学んだノウハウを活かしていきたいと思っています。」
・白澤さん(パッケージング部門)
「私はノウハウの獲得をメインに参加させていただきました。元々コーディングやプログラムはある程度触れましたし、シーケンスのプログラムを動かすことも出来ましたが、データベース構築の部分は新しい知識だったので、とても学びになりました。まだ完全に理解できているとは言えませんが、『こうやればいいんだな』というのは掴むことが出来たので、これからも自分の部署で試しながら、さらに磨いていきたいと思います。」
・小池さん(品質保証部門)
「私はITの知識が全くなくて、『カッコがなんで2種類あるんですか?』『何でここにコンマが付くんですか』という段階から始まりました。何も知らないので、厳しい方だったら委縮してしまったと思いますが、テンダさんのお人柄に救われて、恥ずかしがらずに何でも質問することが出来ました。最後はアプリ開発のコードを書くところまで出来たので自信も生まれましたし、大変でしたけど本当に濃密な4か月間でした。今までとにかく紙での作業が多く、データの集計に何時間もかかっていたので、タブレット1台で完結出来るようになったことが飛び跳ねるぐらい嬉しいですし、現場のスタッフが自分たちが作ったアプリのデモを使っているのを見て、プロジェクトに関われたことを誇らしく思いました。」
会社プロフィール(2022年3月31日時点)
サントリースピリッツ株式会社
設立:2015年
代表取締役社長:神田 秀樹
資本金:150億円
従業員数:677人
本社所在地:東京都港区台場2-3-3
事業内容:国内のスピリッツ事業
サントリースピリッツ 梓の森工場
設立:1977年
工場長:高畑 健一
従業員数:114人
所在地:栃木県栃木市仲方町字堤下20
※会社プロフィールは2022年3月31日時点のものです。2022年7月1日に「サントリースピリッツ株式会社」様は、社名が「サントリー株式会社」に変更されています。